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趣味で空を飛んでいるアラサー会社員が、スマホやタブレットを中心としたガジェットの活用法を気ままに紹介していきます。

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【土竜の唄】セスナ パピヨン号は上海まで飛べるか検証

こんにちは、空飛ぶガジェッター、みいや(@flying_gadget_m)です。

最近読んだ「土竜の唄」という漫画に、セスナで大阪から上海まで飛んで行くシーンがあったので、勉強を兼ねて実機の性能データを使って、実際にそのような飛行が可能か検証してみることにします。

(注)あくまでお遊びの検証です。実際のフライトでは燃料には十分な余裕をもって飛びましょう。

 

漫画の設定

「土竜の唄」は高橋のぼる氏による漫画で、潜入捜査官として暴力団の一員となった主人公の活躍を描く作品です。面白い漫画ですので是非読んでみて下さい(ただし下ネタ満載です)。ただし本記事にはストーリーの一部の盛大なネタバレが含まれますので、未読の方はご了承願います。

 

 

作中で、主人公である菊川玲二と、その兄弟分である日浦匡也が中国マフィアにさらわれた組長の娘を救出するため、大阪から上海まで小型機で飛んで行く「アサギマダラ作戦」が描かれています。今回は作中の情報と私が普段乗っているセスナのマニュアル等から、「アサギマダラ作戦」の設定通りの飛行が可能か検証します。

 

前提の整理

パピヨン号の性能

まずは作中のセスナ機(パピヨン号)について、作中では「セスナ」という表記のみで具体的な機種名は言及されていません。ここでは作中のイラストと、30巻の日浦のセリフ「航続距離1300km」という情報から、C-172(Long Range Tank装備機)と仮定し、性能データは手元のC-172N Pilot's Operating Handbook(要するに飛行機の取説)から引用します。

 

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飛行ルート

設定では、東京を出発して一旦大阪の飛行場で給油し、そこから上海に向かうことになっています。経由地となった大阪の飛行場は、作中では「大阪新簡易飛行場」という架空の飛行場ですが、本記事では大阪における小型機の拠点である「八尾空港」とします。到着地については作中で不時着した上海万博の中国館「中華芸術宮」とします(容赦ないネタバレでごめんなさい)。

飛行ルートは八尾空港と中華芸術宮を結ぶ大圏航路(最短距離のルート)とします。Google Mapを使って距離とコースを求めると以下の通りとなりました。高松、福岡の上空を通る1370kmのフライトです。

 

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フライトの成立性検証

燃料搭載量と機体重量

使用可能燃料はLong Range Tankに満タンで50ガロン、搭乗者は前席2名のみ(菊川玲二、日浦匡也)とします。2人の体重に関して公式設定は無いので、推定値として元々ガタイの良いヤクザで、さらに金属製の義足を装備している日浦は100kg、警察官の菊川は75kgと仮定します。荷物はとりあえず10kgとします。

実際の機体のWeight&Balanceデータ(個々の機体によって異なりますが、私が普段乗っている機体のものを使います)に上記の設定を反映して計算すると、重量、重心位置は機体の許容範囲内に収まり、離陸重量は2223lb(1008kg)となります。

 

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C-172の航続性能

マニュアルより、C-172の最大航続距離は以下の条件で約750nm(1389km)となります。(nm:nautical mile 海里=1.852km)。

  • 50ガロンの使用可能燃料を搭載
  • 地上滑走、離陸、上昇中の燃料消費も考慮する
  • 45分(4.1ガロン)の予備燃料を考慮する
  • 無風条件とする

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上のグラフは横軸が航続距離、縦軸が巡航高度です。またKTASと書いてある数字が対気速度(空気に対する速度)で、単位はノットです。右の「45% POWER」と書かれた線がエンジン出力を最小限に絞って燃費を良くする、いわば「エコ運転」をした場合の航続距離で、その場合に約750nm(1389km)飛べることを示しています。巡航高度は4000ftと仮定します。

先ほど求めた大阪-上海間の飛行距離が1370kmだったので、この時点で、「無風なら行ける」という結論が得られます。上海上空に到着してからも45分以上飛行できるので、着陸場所を探す余裕もあるでしょう。ただし、向かい風が吹いた場合は話は変わってきます。

 

偏西風を仮定した場合

基本的に日本付近の上空は偏西風が吹いていますので、上空は西風です。つまり、大阪から上海へのフライトは向かい風を受ける確率が高いです。作中でも「偏西風に押されて」上海上空で燃料が尽き、不時着を余儀なくされています。特に上記の「エコ運転」では速度が遅い(92ノット=170km/h)ので、向かい風の影響は非常に大きくなります。

例えば、平均10ノットの向かい風が吹いたとすると、対地速度(地面に対する速度)は82ノットになりますので航続距離は82÷92×1389=1238kmとなり、45分の予備燃料を全て使っても82×45÷60×1.852=113km追加されるだけなので、合計1351kmしか飛べず、上海の20km手前でガス欠です。

 

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なお、向かい風が平均9ノットの場合、予備燃料投入後の航続距離が1368kmとなり、漫画と同じように「上海上空でちょうどガス欠」というシチュエーションになります。上空の偏西風が9ノットというと若干弱い気もしますが、低高度であればあり得る範囲かと思いますし、そこは菊川、日浦の強運ということで。

結論として、フライトとしては成立しています。むしろ、「ギリギリ行けるかも!って飛び立ったけどやっぱり風に押されて不時着」というシチュエーションが実機の性能と整合しすぎてて、「作者すげえ」ってなりました。実際作中ではセスナの外観やコクピット、ATCや給油に至るまで細かく描写されており、小型機のことをかなり勉強して描かれているのがわかります。

 

所要時間

ちなみに、向かい風9ノット(対地速度83ノット)で1370km飛行するための所要時間を計算すると約9時間となります。漫画では大阪を夜出発して上海に翌朝到着しており、大阪で給油を待っているシーンで「今(夜の)9時」、上海到着直後に「朝の6時」(現地時間 日本時間で7時)と言っていたので、日本時間22:00離陸と考えればこれもピッタリです。非常によく考えられた設定です。

C-172で9時間…自分には無理だな、操縦してもしなくても。日浦さんおつです。燃料を節約するためにパワーとミクスチャーをシビアに調整しながら1人で9時間操縦した後あの着陸を決めるとは、さすがクレイジーパピヨン。

 

まとめ

セスナで大阪-上海というシチュエーションは最初読んだときは「絶対無理だろ」と思いましたが、改めて検証してみると「理論上は行けなくもない」ことが分かり意外でした。もちろんこのような飛行は現実的ではありませんが、「機体の性能限界を知っておく」という意味では良い勉強になったと思います。

それでは、今日も読んで下さり、ありがとうございました。Good day!

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